個人再生とは
個人再生とは、約定どおりの借金の返済が難しくなった方について、債務総額を減額し、返済計画についても新たに組み直す手続きです。
その特色としては、大きく4つ挙げられます。
①現在住んでいる戸建住宅や分譲マンションを手放さなくてもよい。
②自己破産の障害となる免責不許可事由がある方でも利用することができ、大幅な債務の減額が可能となる。
③個人事業主の場合、原則として事業を継続することが可能となる。
④資格制限がない。
また、その手続き内容としては「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」があります。
その詳しい内容は、次の通りです。
(1)小規模個人再生
将来における継続的または反復的な収入が見込まれる方で、住宅ローンを除いた借入額が5000万円以下である場合に、利用することが可能な手続です。
詳細は後述しますが、借入先に返済すべき金額は、大幅に減額されます。
ただし、借入先の総数の過半数かつ借入額の過半数から、再生手続についての同意を得なければなりません。
仮に得られなかった場合は、手続は廃止されてしまいます。
(2)給与所得者等再生
給与または給与に類する定期的な収入が見込まれ、さらにその変動幅が小さいと見込まれる方で、住宅ローンを除いた借入額が5000万円以下である場合に、利用することが可能な手続です。
詳細は後述しますが、借入先に返済すべき金額は、大幅に減額されますが、小規模個人再生よりはやや返済額が高額になる傾向にあります。
しかし、小規模個人再生のような同意を得る必要がありませんので、1社に借入額全体の過半数以上の借入があるような場合には、リスク回避の為に選択することも一案です。
住宅資金特別条項
再生債務者やそのご家族にとって、生活の基盤となる現在の住宅(戸建住宅や分譲マンション)を引き続き確保しながら、再生手続を行うことができる制度です。
現在支払っている住宅ローンの返済はそのままに、その他の金融機関等からの借入は減額してもらうことが可能です。
ただし、この手続きを利用するには、以下のように様々な条件を満たす必要があります。
①個人である再生債務者が所有している建物であること。
②再生債務者が、自らの生活のために使用している建物であること。
ただし、個人事業で店舗や事務所等として一部を利用しているとしても、その床面積が全体の2分の1以下であれば問題ありません。
③住宅の建設または購入のために借入を行い、分割による返済がなされ、その返済を担保するために、建設または購入した住宅に抵当権が設定されていること。
個人再生における減額率
個人再生における最低弁済額は、下記(1)から(2)(給与所得者等再生の場合は下記(1)から(3))によって算出される金額のうち、一番高い額以上の金額を弁済しなければなりません。
(1)借入額からの算出
住宅ローンを除いた借入額 |
最低弁済額 |
100万円未満 |
借入額の全額 |
100万円以上500万円未満 |
100万円(定額) |
500万円以上1500万円未満 |
借入額の5分の1 |
1500万円以上3000万円未満 |
300万円(定額) |
3000万円以上5000万円以下 |
借入額の10分の1 |
例えば、住宅ローンを除いた借入額が1000万円であれば、最低弁済額は200万円となります。
ここで注意が必要な点が、上述したように、下記(2)から(3)で算出される金額以上の金額が最低弁済額になります。
具体的に説明をしますと、上記の例において、下記(2)または(3)で算出される金額が250万円であれば、250万円が最低弁済額になります。
一方で、下記(2)または(3)で算出される金額が200万円未満であれば、200万円が最低弁済額となります。
(2)清算価値(財産総額)からの算出
清算価値とは、自己破産した場合に、再生債務者が保有している財産を現金化した場合の金額をいいます。
上述したように上記(1)と下記(3)で算出される金額以上の金額が最低弁済額になります。
例えば、住宅ローンを除いた借入額が1000万円あることに対し、財産として生命保険の解約返戻金が100万円、退職金の見込額が100万円、自動車の査定額が100万円の合計300万円あるものとします。
借入額に対する最低弁済額は5分の1の200万円になりますが、清算価値は300万円ありますので、今回のケースでは300万円が最低弁済額になります。
(3)可処分所得からの算出(給与所得者等再生の場合のみ)
小規模個人再生においては、上記(1)と(2)のみの基準だけですが、給与所得者等再生においては、可処分所得についても検討しなければなりません。
可処分所得とは、再生債務者の年収から税金(所得税や社会保険料や住民税)から、再生債務者とその家族の最低限の生活費(金額は政令で定められています)を控除した残額をいいます。
給与所得者等再生においては、上述の残額の2年分以上が最低弁済額となります。
もちろん、上記(1)から(2)で算出される金額以上の金額が最低弁済額になります。
すべての債務が減額されるわけではない
個人再生では、あらゆる債権(借金)が減額されるのではなく、その性質によって減額することが相当でない債権については、そのままの金額を弁済する必要があります。
どのような債権が減額されないかは、民事再生法に定められています。
減額されない債務
(1)共益債権
共益債権とは、債権者一般の利益にかなう費用・負担等に対応する債権のことです。債務者の業務・生活に関する費用も含まれます。
【共益債権の例】
- ・再生手続開始後の再生債務者の生活費(光熱水道費、携帯代など)
- ・個人再生開始後の婚姻費用・養育費の支払い
- ・個人再生委員への報酬
- ・再生債務者が事業を営んでいる場合、個人再生開始後の従業員への給料
(2)一般優先債権
一般優先債権とは、一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)をいいます。これについては、再生手続の開始に関係なく、随時弁済する必要があります。
【一般優先債権の例】
- ・所得税、住民税、固定資産税、個人事業税などの滞納している税金
- ・国民年金、国民健康保険料、社会保険料など
- ・従業員への未払い給料
非免責債権
社会通念に照らして、減額することが相当でない債権をいいます。
【非免責債権の例】
- ・再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(加害者が「悪意」であったかどうかなどの争いがある場合には、別途訴訟で決着をつける必要あり。)
- ・再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- ・養育費、婚姻費用、扶養料
個人再生を考えたら弁護士に相談を
個人再生が認められるか否かは、減額された債務を計画どおりに払っていくことが可能であると裁判所に認めてもらえるかが勝負になってきます。
個人再生申立にあたっては、作成すべき書類が多くあり、その作成の仕方にも詳細なルールがあるため、弁護士に依頼したほうがスムーズに進みます。
また、弁護士から各債権者に対して、債務者から個人再生の依頼を受けたという通知(受任通知)を債権者に送ると、債権者からの取り立てが止まるというメリットがあります。
さらに、事案によって、個人再生含めどのような債務整理手続きが好ましいかについて、弁護士の豊富な知識に基づいてアドバイスを受けることもできます。