2020.07.22 2022.10.03

士業者も債務整理できるの?

士業者も債務整理できるの?

俗に士業(しぎょう・さむらいぎょう)と呼ばれる国家資格を有する士業者は,一般的なイメージからは収入が多いと思われているかもしれませんが,弁護士が自己破産したという話も稀に聞くことがありますし,実際のところどうなのかという点を士業者に問い合わせると,経営が厳しいという話や食べていくだけでやっとというような話も聞くことがあります。

では,士業者が債務超過になって支払不能となった場合,一般のサラリーマンや自営業者等のように債務整理をすることは可能であるのか,また,債務整理を行うことで資格制限等の問題はないのか等の点についてご説明いたします。

士業者の経営状態は千差万別です。

「~士」と呼ばれる士業者は俗に士業(しぎょう・さむらいぎょう)とも呼ばれることがありますが,8士業と呼ばれる弁護士,司法書士,行政書士,社会保険労務士,弁理士,税理士,土地家屋調査士,海事代理士や8士業以外でも公認会計士,不動産鑑定士,通関士,宅地建物取引士等は,全て国家資格を有する専門家です。

一般的には,収入が多いイメージがあるかもしれませんが,士業者の経営形態はそれこそ千差万別です。

弁護士法人や司法書士法人等,法人化して数多くの社員(士業者)と従業員を抱えて大規模に経営を展開しているところもあれば,自宅を事務所として自分1人で全ての仕事をこなしている士業者も存在します。

また,士業の業務内容と関連する別法人を作って,士業とは別に収入の道を確保されている士業者も数多くおられます。

つまり,弁護士法人等の法人であれば,一般の会社と同じような立場で,それこそ大企業から零細企業に至るまで様々な形態がありますし,個人経営の士業者であれば,一般の自営業者と同じ立場にありますので,手広く経営している士業者もいれば細々と経営を続けている士業者もいるということなのです。

一昔前であれば,士業者は「先生,先生」と呼ばれ,黙っていてもそれなりに依頼者を確保できていた時代もあったようですが,現在は,士業者の数も増えましたし,何の営業もせずにお客様の紹介等で経営が十分成り立つという士業者は数少なくなっているのが,実際のところです。

士業者の中には,数多くの顧問先を有し,顧問料だけで経費を十分賄えるという士業者がいるのも確かですが,逆に毎月依頼がなければ収入がなく,貯えや借入金を取り崩して経営を続けていかざるを得ない士業者がいるのも,現実なのです。

士業者が事務所を構えて経営をするためには,事務所を賃貸しているのであれば賃料と光熱費等が,従業員を雇っているのであれば給料の支払等が,その他事務機器に係る費用,通信費や交通費等,事務所を構えて看板を挙げるだけでも毎月の経費が発生しますし,その中でも,賃料や人件費のようないわゆる固定費に関しては,毎月絶対に避けては通れない支出です。

士業者は基本的にはお客様に専門的なサービスを提供して報酬を得るという一種のサービス業であるといえますので,当然ながら,良質な専門的サービスを提供できる士業者のところには依頼も集まりますが,単に事務所を構えて看板を挙げているだけでは,そのような良質なサービスを提供してくれる士業者かどうかを,一般の方が判断することはできません。

そのため,今日,大多数の士業者は自らの事業を維持していくためには,宣伝広告をはじめとした営業活動を行うことも必要となっていますし,そのためには先行投資も必要となるケースがほとんどです。

そのうえで,そのような支出に見合うだけの顧客を獲得して,報酬を得るようにしていかなければ,士業者としての経営は成り立たないことになります。

士業者の広告規制も以前よりは緩やかになりましたので,現在は士業者の広告に関しては,テレビ・ラジオ・インターネット等でも普通に見かけるようになりましたし,各士業者の事務所ホームページ等も数多くみられます。

つまりは,士業者全体が競争にさらされていて,安定した売上を上げていくには各自でそれ相当の努力が必要となっているのです。

一般の会社や自営業者と同じく,士業者である自分をアピールして知ってもらい,なおかつ,知ってもらった方に依頼してもらう(又は顧問を続けてもらう)ことを継続していかなければ安定して経営を続けていくことは困難であるのです。

決して,巷でイメージされるような左団扇で暮らせるような優雅なものではないのです。

また,依頼を受けたからといって,成功報酬を得るまでに先に費用等の支払が必要になる場合もありますし,報酬を取りっぱぐれる場合もあり得ます。

さらには,万一,自分の過失で依頼者に損害を与えてしまえば,損害賠償ということも考えなければなりません。

そのようなリスクマネジメントも含めて,経営を続けていくことは,実は,ものすごく大変なことでもありますし,士業者といえども,一般の会社や自営業の経営と何ら異なることはないのです。

その中で,先行投資として借入をすることもあれば,思ったように顧客が獲得できなければ,借入を増加せざるを得なくなることも一般の会社や自営業の経営と異なるものではないのです。

士業者が債務整理を行うことができるか?

前述のとおり,士業者であっても,先行投資をすべきこともありますし,経営状態がおもわしくなければ債務が増加していく可能性は高くなります。

通常,顧問先を数多く有しているのでもなければ,会社勤めのサラリーマンと異なり,毎月定期的な収入が入ってくるものでもありませんので,実際のところ,債務超過に陥っていわゆる自転車操業的な状態で踏ん張っておられる士業者の方もいらっしゃるのではないかと思います。

その場合,これ以上現状のまま経営を続けていくことができないという場合には,一般の会社や自営業者と同様に債務整理を行って,一旦状況を見直すことができます。

債務整理の方法としては,以下の3つの方法があります。これも,一般の会社や自営業者と異なることはありません。いずれの方法を取るとしても,連帯保証人がいれば,別途請求がされることにはなりますので,その点に関する手当が必要になる場合もあります。

任意整理

任意整理は,債権者と交渉して,利息・遅延損害金をカットして,元金のみを分割弁済していくようにするのが原則的な方法です。もちろん資格制限もありません。

ただし,分割して3~5年かけて,毎月一定額の支払を継続していかなければなりませんので,それこそ顧問料収入や他の仕事について給料を得るような定期的な収入が見込めないのであれば,債権者の合意を得ることは難しいと言わざるを得ません。

個人再生

個人再生は,裁判所に申立てて,住宅ローン以外の借金を5分の1程度に圧縮したうえで,その金額を原則3年で支払っていく方法です。

自己破産と異なり,安定した収入があって,資金的な手当ができるのであれば,持家を維持しながら支払っていくことも可能ですし,資格制限も受けません。

個人再生は,任意整理よりは支払総額を低く抑えることができますが,任意整理と同じく安定した収入がなければ再生計画自体が認可されませんので,難しい方法というべきかもしれません。

自己破産

自己破産は,裁判所に申立てて,免責決定を受けると税金や損害賠償債務等を除く債務全てが免除されます。

原則として,自分の資産もすべて吐き出さなくてはいけませんが,業務に欠かせない道具や財産は残すことが可能ですので,一旦リセットして0から再出発するという意味では,取り得る方法であるとは言えます。

ただし,後述のとおり,資格制限を受けることになる点には注意が必要です。

士業者が債務整理を行った場合のデメリット(特に資格制限に関して)は?

士業者が債務整理を行った場合,任意整理と個人再生に関しては,法律上の欠格事由に該当はしませんので,引き続き士業者として登録を続けていくことは可能です。

ただし,債務整理を行ったことが顧客等に明らかになった場合には,単純に信用を失うことにつながる可能性は否定できませんので,これまで以上に顧客が取れない又は離れていくという結果になる可能性もあります。

自己破産を行った場合には,上記記載の士業者に関しては,各士業法に規定されている欠格事由に該当しますので,一旦,資格の登録を抹消されることになります。

つまり,所属している各士業の単位会から退会しなければならないことになります。

しかしながら,各士業法では,欠格事由としては「破産者であって復権を得ない者」と規定されていますので,破産開始決定を受けると資格登録を抹消されることになりますが,免責決定が確定すれば復権しますので,その後は再度登録をすれば,以前と同じ士業としての業務を再開することができます。

ただし,破産開始決定から免責決定確定までの間は,資格登録が抹消されているため,士業者としての業務を行うことはできませんので,場合によっては,事務所を閉鎖し賃貸借契約を解約せざるを得なくなることもあります。

さらに,免責決定確定により復権した場合に,士業としての業務を再開するのであれば,再度各士業の単位会に登録をし直すことになりますので,入会金等それなりのまとまった費用が必要となります。その費用に関しては,実際問題として借入れして用意することはできませんので,免責決定が確定してすぐに再開できるかどうかという点に関しては,資金的手当ができるのであれば可能ですと言わざるを得ません。

なお,自己破産をしたことが顧客等に明らかになった場合には,単純に信用を失うことにつながる可能性が否定できないことは,任意整理や個人再生と同じですが,一旦事務所を閉鎖する可能性もありますし,家族等の協力を得る等して事務所の体裁を維持していたとしても,破産開始決定から免責決定確定まで通常要する3~6カ月程度の間は業務を行うことができませんので,その点から考えてみても自己破産をしたことが明らかになる可能性は高いものと言わざるを得ないことも残念ながら否定できません。

士業者であっても,必要な場合には債務整理をすることも検討しましょう。

士業者の方は,事業を継続していくことで,それまでの顧客の方へのサポート等も続けていかなければなりませんので,できれば,債務整理をしなければならない状態まで悪化させないように,経営状態を見直しながら手を打っていくべきだとは思います。

しかしながら,どうしようもない状態であるにもかかわらず,それこそ意地だけで現状を悪化させるだけのことを続けるくらいであれば,一旦リセットする勇気も必要かもしれません。

自己破産の場合には,一旦登録は抹消されますが,あなたが有する士業者としての資格は無くなっていません。免責決定が確定して復権すれば,再度士業者として活動する道はあるのですから,一度,じっくりと検討されてみることをお勧めいたします。

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